2012年2月17日金曜日

橋下大阪市長は人権侵害の職員思想調査をやめよ

橋下徹大阪市長は、市の職員に対する職務命令として「労使関係に関する職員アンケート調査」を実施しています。しかしその内容は、きわめて露骨に、職員の思想・信条の自由を侵害し、労働組合活動への干渉・介入を意図するものとなっています。
 今日(2月16日)、日本弁護士連合会(日弁連)は、「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明」を出し、それに先だつ2月14日には大阪弁護士 会が「大阪市職員に対する労使関係に関するアンケート調査の中止を求める会長声明」を出して、その違法性をきびしく告発し、中止を求めました。
 私は思います。労働者は、自分の労働力を使用者に売ることでしか生活の糧を得ることができませんから、みんなバラバラにされて競争させられたら、人間ら しく生きる権利を行使することはできないと。労働組合は、労働者が思想・信条の違いを認めあいながら、使用者に不当な扱いをされず、少しでもいい条件で働 くために団結して行動する大切な組織です。
 今回の橋下市長によるアンケート調査には、労働組合への敵意や悪意が潜んでいます。労働者としての権利と基本的人権、民主主義を守るために、直ちに中止すべきです。
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【日弁連】
 大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明

 大阪市は、本年2月9日、市職員に対する政治活動・組合活動等についてアンケート実施を各所属長に依頼した。
 本アンケートは、組合活動や政治活動に参加した経験があるか、それが自己の意思によるのか、職場で選挙のことが話題になったか否か等について業務命令に より実名で回答を求めるとともに、組合活動や政治活動への参加を勧誘した者の氏名について無記名での通報を勧奨している。また、本アンケートは外部の「特 別チーム」だけが見るとされているが、アンケート内容により回答者に対し処分を行うとされている以上、結局は市当局がアンケート内容を知ることに変わりは ない。
 このようなアンケートは、労働基本権を侵害するのみならず、表現の自由や思想良心の自由といった憲法上の重要な権利を侵すものである。
 まず、本アンケートが職員に組合活動の参加歴等の回答を求めていることは、労働組合活動を妨害する不当労働行為(支配介入)に該当し、労働者の団結権を侵害するものであり、職員に労働基本権の行使を躊躇させる効果をもたらすことは明らかである。
 また、政治活動への参加歴や職場で選挙のことが話題にされることを一律に問題視して回答を求めることは、公務員においても政治活動や政治的意見表明の自 由が憲法21条により保障されていることに照らせば、明らかに必要性、相当性を超えた過度な制約である。そもそも地方公務員は、公職選挙法においてその地 位を利用した選挙運動が禁止されるほかは、非現業の地方公務員について地方公務員法36条により政党その他の政治団体の結成に関与し役員に就任することな どの限定的な政治的行為が禁止されるにすぎず、その意味でも本アンケートは不当なものである。
 ところで、本アンケートには、①任意の調査ではなく市長の業務命令として全職員に真実を正確に回答することを求めること、②正確な回答がなされない場合 には処分の対象になること、③自らの違法行為について真実を報告した場合は懲戒処分の標準的な量定を軽減することが、橋下徹市長からのメッセージとして添 付されているが、これも大きな問題である。
 すなわち、アンケートの該当事項が「違法行為」であるかのごとき前提で、懲戒処分の威迫をもって職員の思想信条に関わる事項の回答を強制することは、いわば職員に対する「踏み絵」であり、憲法19条が保障する思想良心の自由を侵害するものである。
 以上のように、本アンケートは当該公務員の憲法上の権利に重大な侵害を与えるものであり、到底容認できない。
 当連合会は、大阪市に対し、このような重大な人権侵害を伴うアンケート調査を、直ちに中止することを求めるものである。

2012年(平成24年)2月16日
      日本弁護士連合会
        会長 宇都宮 健児
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【大阪弁護士会】
 大阪市職員に対する労使関係に関するアンケート調査の中止を求める会長声明

 報道等によれば、大阪市は、去る2月9日、大阪市職員に対して、「労使関係に関する職員のアンケート調査」(以下「本件アンケート調査」という。)を、2月16日を回答期限として実施するとの指示を所属長に発したとのことである。
 本アンケート調査は、橋下徹市長の職員への回答要請文書に、「市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回 答がなされない場合には処分の対象となりえます。」と明記されており、職員は、その氏名を表示し、使用者に対して回答をすることが強制されている。
 本アンケート調査は、市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動などについて調査することを目的としているとされる。しかしながら、 地方公務員は、公職選挙法により公務員の地位利用による選挙運動が禁止されるほかは、非現業の地方公務員について、地方公務員法により政党その他の政治団 体の結成関与や役員就任等、勤務区域における選挙運動などが限定的に禁止されているにすぎない。それ以外の場合には、地方公務員といえども、一般国民と同 様に憲法に保障された、思想信条の自由、政治活動の自由及び労働基本権を有している。
 本アンケート調査で回答を強制されている内容は、多くの問題を含んでいるが、とりわけ、次の点で看過することができない。
 第一に、職員の思想信条の自由や政治活動の自由を侵害する項目がある。
 「あなたは、この2年間、特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせたり、街頭演説を聞いたりする活動も含む。)に参加した ことがありますか」との質問をし、「自分の意思で参加したか、誘われて参加したか」「誘った人は誰か」「誘われた場所と時間帯は」との選択肢への回答を求 めている(Q7)。
 これは、勤務時間外に参加した正当な政治活動や選挙活動の内容についても回答を強制するものであり、それは、当該職員の支持する政党や政治家、政治に関する関心などの回答を求めることにつながり、職員の思想信条の自由や政治活動の自由を正面から侵害するものである。
 第二に、職員の労働組合活動の自由を侵害する項目がある。
 「あなたは、これまで大阪市役所の組合が行う労働条件に関する組合活動に参加したことがありますか。」として「自分の意思で参加したか、誘われて参加したか」「誘った人は誰か」「誘われた場所と時間帯は」との選択肢への回答を求めている(Q6)。
 ここでも、勤務時間外に行われた正当な組合活動の内容や参加状況についても回答を強制しており、また当該職員の組合活動への参加意欲や組合への帰属意 識、人間関係を調査するものである。したがって、その回答如何では、使用者からの処遇に影響を受ける危惧を抱く職員に労働組合活動への参加を抑制し、その 組合活動の自由を侵害することとなる。
 また、使用者が正当な組合活動への参加状況を業務命令をもって逐一調査することは、使用者から独立して活動する自由が保障された労働組合の運営に使用者として支配介入するものにほかならず、許されない。
 以上のとおり、本アンケート調査は、大阪市職員の思想信条の自由、政治活動の自由、労働基本権などを侵害する調査項目について職務命令、処分等の威嚇力を利用して職員に回答を強制するものであり、到底許されるものではない。
 したがって、当会は、大阪市に対して、本アンケート調査の実施を直ちに中止することを求める。

     2012年(平成24年)2月14日
      大阪弁護士会
         会 長  中 本 和 洋