2012年3月12日月曜日

東日本大震災から1年 ~かけがえのない“命”~

私は、昨年の3月11日は、東京で開催していた組合の大会中に震災に遭い、帰宅できない参加者の宿舎を探して確保し、本部の男性役職員は事務所に段ボー ルを敷いて一夜を明かしました。その間に、東北地方ではたくさんのかけがえのない命が津波にのまれ、津波から逃れた人たちのなかにも寒空の下で命を落とし た人たちがいました。そしてさらに福島第一原発の重大事故が、出口の見えない放射能汚染の被害をもたらしました。
 私達はこのことを決して忘れないし、今なお続く被災地の困難と被災者の苦しみについて考え行動しなければいけないと思っています。私はこの一週間の仕事の忙しさで、ブログに書き残す言葉を考える時間を持てずにいましたが、いま静寂のなかで思いをめぐらしています。
 大震災と原発事故を受け止め、考えるために、私の手元にある3冊の本を紹介します。
 一冊目は、『命が危ない 311人詩集 -いま共にふみだすために-』(編者:佐相憲一、中村純、宇宿一成、鈴木比佐雄、亜久津歩)です。543頁にお よぶこの詩集は、第1章・こども、第2章・仕事、世の中、第3章・動物、草花と共に、第4章・自死ということ、第5章・病気も老いも生きぬいて、第6章・ 農村、山里にて、第7章・レクイエム、第8章・戦争と平和、第9章・歴史と自由、第10章・考える、感じる、第11章・東日本大震災・津波など、第12 章・原発、第13章・願いと祈り、結びの詩、解説・あとがき、で構成されています。この詩集を買うきっかけになったのは、DAYS JAPAN 3月号の特集「詩と写真による3.11 鎮魂歌から続く世界」を読んだこと。そこに紹介された詩は、詩集に掲載されたものと一部異なりますが、心に響いた 詩人の作品をあたってみました。結城文さんの「3・11」、名古きよえさんの「風にゆれて」、福田操恵さんの「海を見つめる少女」、酒井力さんの「水のい のち 放射能汚染を憂える詩」、どれも津波と原発事故の本質を浮き彫りにする詩人の感性が伝わってきます。そして、未来への希望である赤ちゃんと私達おと なの責任を詠んだ空色まゆさんの「種蒔き」がとてもいいと思いました。
 二冊目は、『これでわかる からだのなかの放射能』(安斎育郎著)です。放射性物質の大気中への飛散と海への流出によって、大気と水が汚染され、植物が 汚染され、すべての動物が放射能被曝の危険にさらされています。放射線量の測定は多くの場所で実施されるようになりましたが、食物に潜在する放射能による 内部被曝については、未知の部分が多いです。小さいこどもを持つ親にとって最大の心配事です。本書では、放射性物質の種類によって異なった影響があること を解説し、健康被害を避けるためにできることを例示しています。原発事故によって飛散した放射性物質は自然界にある放射線とはまったく異質の危険性を持っ ています。自然界の放射線の話を持ち出して心配ないという無責任なことは通用しません。具体的で説得力のある本書が広く読まれることを期待します。
 三冊目は、『人間と教育』73号(編集:民主教育研究所)特集・東日本大震災と日本の教育です。子どもたちを震災から守り、放射能から守るための学校と 教育の課題について考えさせられます。大企業の利益優先の社会は、子どもたちが生きる「地域」をおろそかにしてきました。津波で破壊されてしまった「地 域」を再生する拠点としての学校の役割はとても大切だと思います。そして教育の課題もまた地域社会の再生を軸に、考え直していかなければなりません。
 紹介した3冊の本をざっと斜め読みしただけですが、私は、1冊目に紹介した『命が危ない 311人詩集』の解説として佐相憲一さんが書かれた次の文章が、震災後のいま考えるべき“命”の視点だと感じましたので、最後に紹介します。
 ~「命」には二つの側面があって、一つは物質的な肉体の生命、一つは内面的なこころの生命、です。そのどちらも不安な現代生活と言えましょう。昨今の健 康食ブームは、…(中略)…「高度経済成長」「バブル経済」を経て崩壊したこの国の経済「成長神話」後の新たな価値観の模索、などを反映しているとも言え るでしょう。また、巨大な商業社会で「人と人とのこころのふれあい」の喪失が、苦しい経済状況や教育の荒廃とも相まって、さまざまな「こころの病」を生み だしています。いじめ、児童虐待、ひきこもり、家庭崩壊、正社員になれない若者の自信喪失、過度の競争社会におけるサラリーマンのストレス症状、孤独死、 介護疲れからくる自殺や他殺、など。こうした暗い世の中でも、日々何とか明るく頑張って生きておられるというのが多くの人々の実感かもしれません。「命」 をキーワードにして見つめると、この社会のあり方も根本的に考え直さないといけないのではないかと言わざるをえません。~(佐相憲一「解説1 命の声の詩 集です」から抜粋)