2012年8月6日月曜日

被爆体験を語り継いでいくこと

明日、8月6日は、ヒロシマ被爆67年の日です。
 年々被爆者の方が高齢化して、永眠されたことを聞くにつれ、被爆体験を語り継ぎ、核兵器廃絶を世界に訴え続けていくことの大切さを痛感します。
 今年、5月9日、広島県医師会長で、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)日本支部長の碓井静照さんが、お亡くなりになりました。享年74歳でした。(IPPNWについては、2010年の第19回世界大会声明「バーゼル宣言」を資料に掲載します)
 碓井さんは、8歳の時に爆心地から2.3キロメートル離れた自宅近くで閃光を浴び被爆しました。そして防空壕に運び込まれ、水を求めて息絶えていった人 たちを目の当たりにしたことが、医師を志すきっかけになりました。1998年から広島市医師会長を3期6年務め、2004年に広島県医師会長に就任。地域 医療の充実をけん引するとともに、外国に点在する被爆者の医療支援のために、北米や南米へ現地健診に赴くなど、多くの功績を残しました。また、広島市の平 和式典の平和宣言に盛り込む被爆体験談の選定委員でもありました。
 去年の広島平和宣言の抜粋を紹介しましょう。「8月6日午前8時15分に、一発の原子爆弾でそれまでの生活が根底から破壊されてしまいます。当時16歳 だった女性の言葉です。――『体重40キロの私の体は、爆風に7メートル吹き飛ばされ意識を失った。意識が戻った時、辺りは真っ暗で、音の無い、静かな世 界に、私一人、この世に取り残されたように思った。私は、腰のところにボロ布をまとっているだけの裸体で、左腕の皮膚が5センチ間隔で破れクルクルッと巻 いていた。右腕は白っぽくなっていた。顔に手をやると、右頬はガサガサしていて、左頬はねっとりしていた』・・・・ 被爆者は、さまざまな体験を通じて、 原爆で犠牲となった方々の声や思いを胸に、核兵器のない世界を願い、毎日を懸命に生き抜いてきました。・・・・ その被爆者は、平均年齢77歳を超えなが らも、今もって、街を蘇生させた力を振り絞り、核兵器廃絶と世界恒久平和を希求し続けています。このままで良いのでしょうか。決してそうではありません。 今こそ私たちが、すべての被爆者からその体験や平和への思いをしっかり学び、次世代に、そして世界に伝えていかなければなりません。」
 先日、NHKのニュースで、広島市が「被爆体験を語り継ぐ人」を募集し研修を始めたことが報道されました。20歳代の若い人を含む120人余が参加する 研修で、17歳の時被爆した竹岡智佐子さんが体験を語りました。竹岡さんは被爆した3年後に男の子を出産しましたが、生後まもなく亡くなりました。当時医 師からは原爆が原因ではないかと言われました。「生まれて18日目、さっきまでおっぱいをおいしそうにごくごく飲んでくれた。でももう飲めない。口がこわ ばって、目がうつろになってきた。そして流れるお乳も飲まないで息を絶ちました。お医者さんは、これは原爆病ですよ・・・・」と。受講生たちは、被爆体験 の重さを受け継いで語っていくことの難しさを感じましたが、竹岡さんは「若い人たちに、お元気な方たちに語り継いでいただきたい。それが私の願いなんで す。どうかよろしくお願いします」と話されました。被爆体験伝承者は、約3年の研修を経て、2015年度から広島市の原爆資料館を訪れる人たちに原爆の悲 惨さを伝える活動を始める予定です。
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【資料】
第19回IPPNW世界大会声明
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)
2010年8月29日、スイス・バーゼル

バーゼル宣言

 65年前の8月、米国は広島と長崎の上空で世界初の原子爆弾を爆発させた。そして世界は想像もしなかった危機的時代に突入し、未だにそこから解き放たれ ていない。一発の核兵器でひとつの都市を破壊できる。広島級の核弾頭100発で何千万もの人々を瞬時に殺戮でき、地球上の気候を変動させ、飢餓と疫病によ り十億人もの命が失われる。米ロが未だに配備している何千もの核兵器の応酬があった場合、地球そのものが居住不可能な荒廃した土地となってしまう。
 例えば、核兵器が致死性のウィルスで、世界的に蔓延し何億人もの人々が罹患・死亡するほどの威力があれば、世界中の国々が資金を惜しまず提供し、これを 封じ込め、根絶しているだろう。既に天然痘、結核、ポリオでそうしてきた。そして今日、HIV/エイズ、がん、そして新たに出現している病に対して資金を 集結させている。しかし感染症とは異なり、核の脅威は我々自らがもたらした。核兵器は人間が作り出したものである。核兵器のもたらす影響はどのようなウィ ルスよりも恐ろしいものである。しかし核兵器を根絶することは実は容易なことである。核兵器を廃絶するという固い決意とその決意を結末まで見届ける強い意 思さえあればよいのだ。
 IPPNWは、地球上の気候への壊滅的な影響を防ぐ必要性と並んで、世界中の核兵器廃絶が現在の我々の最も緊急な健康と安全保障上の優先課題であると信 じている。赤十字国際委員会(ICRC)、世界保健機関(WHO)、世界医師会(WMA)などの国際的医療保健機関と各国の医師会が、核兵器の廃絶こそが 核兵器の使用を防止する唯一の確かな方法であるという我々の信念に賛同している。
 核兵器禁止条約(NWC)は、全ての核兵器保有国が自国の核兵器を全廃することを求め、全ての国が将来にわたり核兵器を保有することを禁じている。これ が、我々が招いた人道主義の危機を防ぐ最も効果的で実際的な条約である。化学・生物兵器、対人地雷、クラスター爆弾に対しては既にそのような条約が存在し ている。核兵器も同様にとっくの昔に廃棄され、その脅威が取り除かれるべきであった。核兵器が発明されたことを取り消すことはできないが、核兵器を解体 し、再び使用されないように保障することは我々の力でできることである。
 我々は「核兵器のない世界の平和と安全保障」のために努力したいというオバマ大統領のプラハ演説を歓迎した。それから我々は、核兵器廃絶反対派がこの目 標の達成には何十年もかかると主張するのを耳にしてきた。彼らは、世界がより平和でより安全になるまで核兵器廃絶は見送るべきであると言う。核兵器をゼロ にするという目標は間違っている、そして、核兵器を持つ国と持たない国が存在しても、核兵器は実際に世界の安定と安全を強化するのだと論じる者さえいる。 核抑止力には効果があると一般市民を安心させようとしているのだ。核兵器保有国は核軍縮に関して新たに肯定的な発言をする一方で、国家安全保障を理由に、 これから数十年にわたり何千何百という核兵器を武器庫に保有し続ける計画である。これらの議論はいずれも精査に耐えうるものではない。
 核兵器廃絶はより平和でより安全な世界に向けての重要なステップである。核兵器保有を全ての国でなく限られた国のみに認めれば、核拡散と不安定さを促進 することとなる。それは北アジアや中東の状況を見ると明らかである。核抑止力(これは全市民を焼き尽くすという脅迫の婉曲表現である)に失敗はないと期待 することは幻想に過ぎない。
 核兵器廃絶は議論の余地がないほど正当な目標であり、素早く確固たる速度で進めていくことが必要だ。核兵器のない世界の実現を阻む唯一の障害は強硬な政 治姿勢である。秋葉忠利広島市長と4,000以上の都市の市長は2020年までに核兵器のない世界を実現するよう呼び掛けている。この課題を達成するのに 10年は十分すぎるほどの時間である。IPPNWは平和市長会議とともにこの提案の実現に努力していく。
 原子力エネルギー利用の世界的普及は、原子力産業および核燃料製造に既得の経済的利権を有する政府によって強力に推進されているが、核兵器廃絶にとって 深刻な障害となっている。原子力エネルギーは気候変動問題に対する有効な解決策ではなく、運転過程の全ての段階で健康と環境を危険にさらす。原子力発電所 が核拡散の危険性を内在しているだけでなく、原子炉そのものが攻撃対象となることも問題である。攻撃対象の数は増やすのではなく減らしていくべきである。 加えて、原子力エネルギーで世界のエネルギー需要を満たすのは極めて高額な手段である。IPPNWは、再生可能なエネルギー源の世界的促進、エネルギー安 全保障の強化、化石燃料や原子力に依存しない経済・社会発展の実現を目指す国際再生可能エネルギー機関(IRENA)を支持する。
 何事も実現までには多くの段階がある。我々は米ロ間で締結された新START(新戦略核兵器削減交渉)を控えめではあるが正しい方向への一歩として支持 する。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効は数年前に実現しているべきであったが、直ちに完了させるべきもう一つの段階である。その他の建設的段階と して、全ての核兵器保有国の先制不使用宣言、米国の戦術核兵器の欧州からの撤去、核分裂性物質の製造禁止、核兵器運搬システムを高度警戒状態から外すこ と、そして、新型兵器やその製造・実験用インフラの近代化プログラムを中止することなどがある。医療を専門とする者も、放射性医薬品製造用の全ての原子炉 を核兵器級の高濃縮ウラン(HEU)使用から低濃縮ウラン(LEU)使用に転換することによって、医療関係でのHEUの商業取引を止める義務がある。これ ら全ての段階は直ちに実行できるはずであり、実行すべきものである。
 しかしこれらは包括的核兵器廃絶協定の交渉に代わるものでもなければ、不可欠の条件でもない。ある特定の兵器規制措置の遅れが、速やかに核兵器ゼロを達 成するという最も重要な目標を妨害することがあってはならない。ここにIPPNWが2007年に核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)を立ち上げた理由 がある。ICANの目的は大量殺戮兵器を世界から排除する核兵器禁止条約への市民および政府関係者の支持強化である。
 核戦争はこれまで考え出された中で最も極端な形の武器による暴力である。しかしそれだけではない。冷戦終結以降も、イラク、アフガニスタン、バルカン諸 国、旧ソ連共和国、中東、アフリカ、南アジアおよびラテンアメリカでは戦争や軍事介入により百万人単位で、主として非戦闘員が亡くなった。戦争、犯罪、自 殺、事故に関連した小火器の使用で、毎年、何十万人もの人が死亡し、何百万人もの人が負傷している。さらに、小火器や他の通常兵器の使用が、特に世界で最 も不安定な地域においては、容易に核兵器の使用にエスカレートしかねない。WHOは、暴力は、武器を用いた暴力も含めて、重要かつ予防可能な健康問題と特 定し、根底にある原因をよりよく理解し、効果的な介入を行っていくための公衆衛生面からの取り組みが必要であるとしている。これは今年10年目となる IPPNWの「予防を目指して(Aiming for Prevention)」運動の最終目標である。
 平和、安全保障、そして自由は全ての人々の権利である。これらの権利を世界中に普及させる最も効率的な手段は国連のミレニアム開発目標である。あらゆる 種類の武装暴力は人間の安全保障と発展を脅かすものである。この地球規模の問題の公衆衛生上の側面はほとんど理解されていない。意図的な暴力による傷害や 死亡の割合は高いが、それを低下させるため、我々はあらゆる社会階層において予防政策を支持する、行動重視での調査、教育そして唱導を行っていく必要があ る。IPPNWは健康と開発は切り離せないものであると認識しており、「武装暴力と開発に関するジュネーブ宣言」を早い時期から支持している。この宣言 は、2015年までの武装暴力による世界の負担の測定可能な低減、人間の安全保障における具体的成果を求めている。
 我々はIPPNW設立30周年およびノーベル平和賞受賞団体としての25周年を記念するため、バーゼルでの「第19回IPPNW世界大会」に参集した。 IPPNWは我々の最優先事項である世界から核兵器を排除すること、そして集団安全保障を提供する手段としては時代遅れで非効果的であり、人道に値しない 方法である戦争を防止することを今再びここに誓う。

(原文:英語、翻訳:広島県医師会事務局)

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